弁護士俵のブログ/ Bengoshi / Abogado TAWARA Cristóbal Kojiro

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永住者の在留資格の取消し

入管法の改正法案が審議されています。

〇条文はこれ

 第二十二条の四第一項中第十号を第十二号とし、第九号を第十一号とし、第八号を第十号とし、第七号の次に次の二号を加える。
  八 永住者の在留資格をもつて在留する者が、この法律に規定する義務を遵守せず(第十一号及び第十二号に掲げる事実に該当する場合を除く。)、又は故意に公租公課の支払をしないこと
  九 永住者の在留資格をもつて在留する者が、刑法第二編第十二章、第十六章から第十九章まで、第二十三章、第二十六章、第二十七章、第三十一章、第三十三章、第三十六章、第三十七章若しくは第三十九章の罪、暴力行為等処罰に関する法律第一条、第一条ノ二若しくは第一条ノ三(刑法第二百二十二条又は第二百六十一条に係る部分を除く。)の罪、盗犯等の防止及び処分に関する法律の罪、特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律第十五条若しくは第十六条の罪又は自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第二条若しくは第六条第一項の罪により拘禁刑に処せられたこと。

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g21309059.htm

〇公租公課の支払いで取消しってどうなのか
 税法は人とか会社から税金を集めることが目的であって、税金が払えない人を良く評価したり悪く評価したりすることはその目的ではないはずです。
 つまり、税金を払わないのであれば、延滞税を払わせたり追徴課税をしたり、あと差押えをしたりして回収すればそれで税法上は十分だと思います。

 実態として、公租公課を支払えない場合としては、生活が困窮している、脱税しているの2つがあると思いました。
 脱税については、脱税分の税金を回収することが公的な要請なはずで、永住者の在留資格を取り消すことにどれだけ意味があるのかわかりません。

 生活が困窮しているのであれば、やるべきことはただひとつ。助ける、ではないでしょうか。
 生活が困窮している永住者の人に特別な事情がなければ、在留資格を定住者に変更できず(自活能力がないので)、
 そうすると、永住者→特定活動→出国準備→出国 のルートができかねません。

 しかし、果たしてそれでいいのでしょうか。
 生活が困窮した、つまり、一度は厳しいハードルをクリアして永住者になったのに転落した理由は人によりけりです。
 弁護士としての私に見えている景色は、
 もともと日本人の配偶者等→永住者になった方で、その後、日本人が蒸発したとか、DVをするから逃げたとか、死別したとかで生活が困窮したという事情のある方の視点です。

 私が知る限り、そうした方は、専業主婦やパートをしてきて、お子さんが成人するまで育てたママさんが多く、日本語はお上手でご家族とのコミュニケーションは日本語でやられていますが、専門用語などの難しい言葉はわからない(から、英語が話せる人に相談したいということで、私のところにいらっしゃいます。)という方が多いです。
 そして、実はその日本人の配偶者自身の所得が高いわけでもなく、ましてや社会保険を払ってくれていないような会社に勤めていたりする、ということもザラにあり、婚姻時・配偶者の生前時に、その日本人の配偶者が、妻の分まで丁寧に税金の手続をしてくれておらず、なんなら、夫婦でお金のことをきちんと話し合っておらず、夫の通帳は見たこともない、自分ではお金のことが全くわからない、というご相談も非常に多いです。
 しかし、だからといって税金を無視しているわけではなく、役所から届いた税金の書類がよくわからないとか、相続放棄の手続がわからないから助けて欲しいとご相談にいらっしゃるわけですが、その時点で税金は延滞になっていたりします。そのタイミングで、延滞税を完済するのは難しいでしょう。
 果たして、入管がどの時点をもって「故意に公租公課の支払をしない」と判断するかわかりません。
 そして、「先生、わたしの永住者のビザはなくなりますか。」と聞かれます。私は何と答えればいいのでしょうか。

 あなたは永住者ではなくなるリスクがあります。若い頃みたいにもう一度頑張って下さい。
 50歳?大丈夫です。働けます。フルタイムで働いて稼いでください。
 役所から届いた紙に書いてある日本語がわからなければ役所に行って聞いてください。
 役所が開いているのは普通、月~金で9時~17時です。有給を取って役所に行けば大丈夫です。

 と言えれば良いのですが、そんな残酷なことは言いたくありませんから、やはり私はこの改正法案には賛成できません。

(以下はメモです。)
〇遡及はしない
 なお、取り消されるのは「現に有する在留資格」(22条の4第1項本文柱書)であって、「許可」ではないはずです。
 なので、テクニカルなことを申し上げると、遡及はしない。つまり、取消→不法上陸として扱い→退去強制、というわけではないと理解しています。

〇永住「許可」取消?
 同様に、取り消されるのは「現に有する在留資格」(22条の4第1項本文柱書)であって「許可」ではないので、
 厳密に申し上げれば、「永住許可取消」は実は正確ではないかもしれません。
 だけども、別にそこまでテクニカルは話をしているわけではない場面であれば、どちらでも良いのかなとも思います。